卸売業ガイダンス

業界総括

経済産業省『商業動態統計』によると、卸売業全体の2017年1月の販売額は24兆8,430億円となっており、前年同月比1.6%増となった。ただし、長期トレンドとしてみると、販売額は減少しており、業界全体で厳しい経営環境が続く。

現状の業界動向

(1)卸売業を通さず、卸売業の仕入先と得意先が直接取引する「中抜き」が進むことで業界環境は悪化

得意先(特にスーパー等の小売業)の購買力強化やインターネット取引の増加等により、卸売業を介さない取引が増加傾向にある。インターネット普及により情報格差が少しずつなくなりつつあり、これまでの経営スタイルでは売上拡大は難しくなっている。各社は、提案型営業やリテールサポートを強化すること等により収益拡大を図っている。

(2)大手ECサイトの法人向けサービス開始

アマゾンジャパンは2017年9月20日、オフィス用品や、大学や病院向けの消耗品などを販売する法人向けのECサービスである「アマゾンビジネス」を開始した。請求書払いにも対応しており、当該製品を買い求める法人の活用が想定される。また、アマゾン本社では、運送業への参入も報道されている。すぐに卸売業全体の環境に影響を与えるものではないが、取扱量が増えることで影響範囲が拡大する可能性がある。

(3)M&A、業務提携によるスケールメリット確保、川上・川下への参入

卸売業各社は、スケールメリットを確保するために積極的なM&Aや業務提携を実施している。また、同業とのM&Aや業務提携だけではなく、川上・川下の資本提携・連結子会社化も積極的に行われている。

(4)海外展開

国内市場だけではなく、海外市場にも目をつけ、規模拡大を図っている。

大手商社では、資源開発、大規模PJ開発が中心である。一方で、中堅・中小各社は製造業と連携もしくは製造機能を保有することで、自社がノウハウを持つ商品を中心とした海外拡販を実施しているケースや、海外企業を買収することで規模拡大を図っているケースがある。

今後(2018年5月頃まで)の見通し

(1)海外経済動向(米国)への対応

海外展開が進む卸売業においては、米国経済の行方は本業に大きな影響を与える可能性がある。特に、トランプ大統領の発言や各種大統領令は、米国で事業を行う企業や米国と輸出入を行っている企業にとって大きな影響を与えると考えられる。直近では米国における法人税減税の影響は大きいと考えられ、海外拠点の役割等について再検討が必要となる可能性がある。

(2)海外経済動向(欧州)への対応

米国経済同様欧州経済の行方は本業に大きな影響を与える可能性がある。英国のEU離脱(Brexit)の行方は、今後の英国経済、ひいては英国との取引を行う企業に大きな影響を与えると考えられる。

EUという点では、19年発効を目指している日本とEU間で結ばれる予定のFTA(日EU・EPA)の動向は注目される。日EU・EPAが締結されることで、日本とEU間の輸出入は活性化の見込み。ビジネスチャンスになると考えられる。

(3)地震等の災害への対応

大規模な地震発生後、多くの在庫を保有する食品卸売業や医薬品卸等では、安定的な供給を継続するため、対応策の検討だけではなく、在庫そのものの状況確認・整理に追われた。

被災地においては、食品・医薬品の継続的な供給が求められ、多くの小売業で早期の復旧がなされているが、商品の供給にあたっては卸売業の正常化が必須。大規模災害が起きるたびに注目されるBCP(事業継続計画)は、災害から日がたつことで運用がおろそかになってしまうケースもある。各社は改めてBCPを見直し、万が一の際に適切な行動ができるようにしておく必要がある。

取引深耕のポイント

自社の強み(商品構成・商慣習等)をどのようにアピールしているか。
環境関連や高齢者向け商品など時流に合った商材にどのように取り組んでいるか。
どのようなリテールサポートを行っているか。
自社の得意先の市場環境をどのように考えているか。
人材確保の方策をどのようにとっているか。特に海外展開を行っている企業の場合、海外事業に対応可能な人員を確保できているか。
東京五輪、各国とのFTA等に対してどのような商機があるか。
物流の仕組みをどのように構築しているか。不具合が起きた際の体制はどのようになっているか。
適切なBCPが策定されているか。
(株式会社 日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 粟田 輝)