卸売業ガイダンス

業界総括

経済産業省『商業動態統計』によると、卸売業全体の2018年5月の販売額は26兆580億円となっており、前年同月比6.8%増(季節調整済では1.8%増)となった。ただし、長期トレンドとしてみると、1990年546兆円、2000年448兆円、2010年325兆円と年々減少を続け2017年には313兆円となっており、業界全体で厳しい経営環境が続く。

現状の業界動向

(1)卸売業を通さず、卸売業の仕入先と得意先が直接取引する「中抜き」が進むことで業界環境は悪化

得意先(特にスーパー等の小売業)の購買力強化やインターネット取引の増加等により、卸売業を介さない取引が増加傾向にある。インターネット普及により情報格差が少しずつなくなりつつあり、これまでの経営スタイルでは売上拡大は難しくなっている。各社は、提案型営業やリテールサポートを強化すること等により収益拡大を図っている。

(2)大手ECサイトの法人向けサービス開始

アマゾンジャパンは2017年9月20日、オフィス用品や、大学や病院向けの消耗品などを販売する法人向けのECサービスである「アマゾンビジネス」を開始した。請求書払いにも対応しており、当該製品を買い求める法人の活用が想定される。なお、本サービスはイタリア・スペインでもサービスを開始し、計8カ国で展開されることになった。すぐに卸売業全体の環境に影響を与えるものではないが、取扱量が増えることで影響範囲が拡大する可能性がある。

(3)M&A、業務提携によるスケールメリット確保、川上・川下への参入

卸売業各社は、スケールメリットを確保するために積極的なM&Aや業務提携を実施している。また、同業とのM&Aや業務提携だけではなく、川上・川下の資本提携・連結子会社化も積極的に行われている。

(4)海外展開

国内市場だけではなく、海外市場にも目をつけ、規模拡大を図っている。

大手商社では、資源開発、大規模PJ開発が中心である。一方で、中堅・中小各社は製造業と連携もしくは製造機能を保有することで、自社がノウハウを持つ商品を中心とした海外拡販を実施しているケースや、海外企業を買収することで規模拡大を図っているケースがある。

今後(2018年11月頃まで)の見通し

(1)海外経済動向(関税)への対応

海外展開が進む卸売業においては、関税の動向が企業経営に大きな影響を与える可能性がある。

現在、アメリカが課した鉄鋼とアルミニウムの関税に対し、中国や欧州連合(EU)およびカナダが報復措置を実施している。この動きは今すぐに解消される見込みは少なく、各国が検討している報復関税が継続される見通し。関連する製品を輸出入している場合は、取引高減等に伴い経営が悪化する可能性がある。

(2)海外経済動向(欧州)への対応

19年発効を目指している日本とEU間で結ばれる予定のFTA(日EU・EPA)の動向が注目される。日EU・EPAが締結されることで、日本とEU間の輸出入は活性化の見込み。ビジネスチャンスになると考えられる。

また、EU域内の個人データのEU域外への持ち出しを厳格に制限する法律である「GDPR(EU General Data Protection Regulation)」への対応が重要となる。今後は本法律を留意の上、情報を取り扱う必要がある。

(3)地震等の災害への対応

大阪北部地震発生後、多くの在庫を保有する食品卸売業や医薬品卸等では、安定的な供給を継続するため、対応策の検討だけではなく、在庫そのものの状況確認・整理に追われた。

ライフライン等が途絶える規模の地震発生時には、食品・医薬品の継続的な供給が求められ多くの小売業で早期の復旧がなされているが、商品の供給にあたっては卸売業の正常化が必須。大規模災害が起きるたびに注目されるBCP(事業継続計画)は、災害から日がたつことで運用がおろそかになってしまうケースもある。各社は改めてBCPを見直し、万が一の際に適切な行動ができるようにしておく必要がある。

取引深耕のポイント

自社の強み(商品構成・商慣習等)をどのようにアピールしているか。
環境関連や高齢者向け商品など時流に合った商材にどのように取り組んでいるか。
どのようなリテールサポートを行っているか。
自社の得意先の市場環境をどのように考えているか。
人材確保の方策をどのようにとっているか。特に海外展開を行っている企業の場合、海外事業に対応可能な人員を確保できているか。
東京五輪、各国とのFTA等に対してどのような商機があるか。
物流の仕組みをどのように構築しているか。不具合が起きた際の体制はどのようになっているか。
適切なBCPが策定されているか。
(株式会社 日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 高津 輝章)