サービス業ガイダンス

業界総括

総務省統計局『サービス産業動向調査』(2022年3月分速報)によると、サービス産業の3月の売上高は37.2兆円で、前年同月比+1.3%となり、5カ月連続の増加となった。サービス産業の大分類別にみると、2022年3月に前年同月比ベースで増加に寄与した業種は、水運などを含む「運輸業、郵便業」(+5.2%、12カ月連続の増加)、娯楽などを含む「生活関連サービス業、娯楽業」(+6.8%、4カ月連続の増加)、職業紹介・労働者派遣などを含む「サービス業(他に分類されないもの)」(+3.1%、12カ月連続の増加)となっている。

現状の業界動向

(1)訪日外国人数の現状

ここ数年続いた円安や、中国や東南アジア諸国のビザ発給要件の緩和などにより、2019年の訪日外国人数は3,188万人を記録した。日本政府観光局によると、2022年5月の訪日外客数は147,000人と推計されており、2019年の同月と比較して▲94.7%となっている。

また、観光庁『訪日外国人消費動向調査』によると、2019年の訪日外国人旅行消費額は4兆8,135億円であり、その内訳は、宿泊費・飲食費・娯楽等サービス費といったサービス業関連が56%を占めている。統計調査が開始された2010年時点における消費額1兆1,490億円と比較すると、直近10年間でおよそ4倍となっており、昨今の消費者向けサービス業におけるインバウンドへの依存度がいかに高まっていたかが窺える。他方、新型コロナウイルス感染症の影響により、当該調査は中止されている(一部の空港において試算は実施)。

(2)労働力不足の深刻化・外国人労働者の活用

国内人口減・少子高齢化等を背景に、外国人労働者の活躍が期待されている。厚生労働省『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ』によると、2021年10月末時点における外国人労働者数は約173万人と、前年比+0.2%であり、2007年に届出が義務化されて以降、最高を更新したが、伸び率については前年の+4.0%から3.8ポイント減少となった。

政府は2019年4月に出入国管理法を改正し、介護・清掃等の人材不足が深刻な分野を対象に、単純労働者を含む外国人労働者の受け入れを拡大した。技能実習制度については、人材の確保につながる期待がもたれている一方、認定された計画外の作業をさせたり、適正な給与を支給しなかったり等の違反行為が問題視されており、事業者による適切な労務管理が求められる。

今後(2022年11月頃まで)の見通し

(1)新型コロナウイルスの影響:飲食業

一般社団法人日本フードサービス協会『外食産業市場動向調査』(2022年4月度)の全体概況によると、「4月の外食需要は、3月22日以降全国でまん延防止等重点措置(以下、重点措置)が解除されたことから、首都圏など一部地域では感染再拡大防止のための自治体の協力依頼があったものの、おおむね回復基調となり、全体売上高は前年比113.5%、コロナ禍前の2019年比では91.9%となった。春休みや土・日曜日、祝祭日を中心に、家族連れが外食需要を牽引し、商業施設立地の店舗などが好調であった。一方、コロナ禍での生活習慣の変化により、制限緩和後も夜間の客足は依然として早く途絶え、夜の外食需要は戻っていない。また、営業回復に必須の人員確保も大きな課題で、一部店舗では人手不足から売上の回復が遅れている」とされている。

(2)新型コロナウイルスの影響:宿泊・観光業

先述の通り、宿泊・観光業は昨今のインバウンドに係る恩恵を多大に受けていた一方、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行に伴いインバウンドは激減した。

2022年6月15日現在(執筆時点)、緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置は発出されていない。入国制限の緩和に伴い訪日外国人観光客の受入れの拡大が始まったことから、インバウンド需要復活への対応が始まっている。なおこの情報は執筆時点のものであり、最新情報は適宜、HP等を参照されたい。

また、JTB総合研究所が2022年4月に発表した「新型コロナウイルス感染拡大による、暮らしや心の変化と旅行に関する意識調査(2022年4月)」によると、生活者全体からみた意識として、「今後1年間に国内旅行を予定・検討している人」は39.2%と前回(2021年10月調査)から3.4%上昇しており、旅行への意欲が上昇している。また、「1年以内に旅行を予定・検討している人の意識」として、2022年7〜9月に旅行をしたい人は30.1%となっている。感染対策や感染症の再流行への警戒が引き続き見られるものの、旅行の潜在的需要傾向には改善が見られる。

取引深耕のポイント

不確実性の高さを踏まえ、事業継続性の確保に対しどのような戦略をとっているか。
消費者ニーズの変化・多様化をとらえ、どのようなマーケティング戦略をとっているか。
売上の変化に応じ、どのようなコスト低減策をとっているか。
アルバイトやパートも含め、人材確保の方策をどのようにとっているか。
少子高齢化といった国内消費者の構造変化に対して、どのような取組みを行っているか。
適性に応じて、女性や高齢者、海外人材など多様な人材の活躍を推進しているか。労務管理は適切か。
感染症対策を十分に行い、クラスター発生等のリスクへの対応を検討できているか。
(株式会社 日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 コンサルタント 渡部 周)