小売業ガイダンス

業界総括

足元の企業業績が堅調なことや、訪日外国人消費が引き続き伸びているなど、明るい話題はあるものの、小売業は総じて厳しい状況にある。個人の財布の紐が固く、需要の盛り上がりに欠けていることに加えて、人手不足から人員確保のための人件費支出が増加するケースも目立ち始めている。ただし、一部の品目や地域(都市部)は比較的堅調で、ドラッグストアなど業態によっては好調さを維持している例も見られる。各社は業態の見直しやコストの削減に努めるとともに、消費者のニーズに合わせた付加価値の高い商材の提供や、旺盛な訪日外国人需要を取り込むことで売上確保に努めたい。人手不足への対応という観点では、柔軟な勤務形態の導入など、賃上げ以外での人員確保・維持のための施策立案も重要である。

現状の業界動向

(1)スーパーの動向

全国のスーパーなどが加盟する日本チェーンストア協会会員企業の2018年5月度の総販売額は1兆670億円で前年同期比▲1.5%と2カ月連続で前年水準を下回った。2018年1月〜3月期(前年同期比+0.5%)と比較し減速傾向が見られる。5月度は悪天候の日が多いなどの要因はあったものの、食料品は▲1.2%(前年同月比既存店ベース)、衣料品は同▲8.3%、住関品は同▲3.5%、サービスは同▲1.4%とすべての部門でマイナスとなった。

業種横断での人材争奪戦もスーパー各社を悩ませている。人材の確保・定着のために優秀なパートを正社員化する動きや勤務日等を柔軟に決定できる制度を導入する動きが広まっている。

(2)コンビニ・ドラッグストアの動向

一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会が公表している統計データによると、2018年5月度のコンビニエンスストア売上高は9,147億円で前年同月比+0.9%と成長を維持した。売上高の前年同月比プラスは63カ月連続。カウンター商材や、サラダ・惣菜・冷凍食品等の中食が好調に推移した。

ただし、客単価が上昇している一方で、来客数は伸び悩んでいる。新規店舗も含む全店ベースでは2018年5月度もプラス(+0.2%)を維持したが、既存店の来客数は2018年5月に前年同月比▲2.5%となり、27カ月連続でマイナスとなった。

コンビニエンスストア業界は大手3社(セブン・イレブン、ローソン、ファミリーマート)による寡占化が進んでおり、中堅以下のコンビニは苦戦を強いられている。大手3社も出店を拡大してきたため、成長余力は限られてきており、単価の向上でなんとか成長を続けている状況にある。大手コンビニ間での競争に加えて、ドラッグストアなど異業種との競争も激しさを増している。日本チェーンドラッグストア協会によると、2017年度のドラッグストア全店売上高は前年度比+5.5%となった。ドラッグストアは食品の品揃え拡充などを進めることでスーパーやコンビニのシェアを奪っている状況にある。

(3)百貨店の動向

日本百貨店協会によると、2018年5月の全国百貨店の売上高は4,505億円で、前年同月比▲2.0%と3カ月ぶりにマイナスとなった。2018年2月〜2018年4月期の3カ月移動平均値は0.0%と横ばいであったが、ここに来てマイナス基調となっている。訪日外国人消費は引き続き旺盛で、5月のインバウンド消費は287億円で前年同月比+49.0%と大きく伸び、インバウンド売上高のシェアは6.4%まで高まっている。地区別にみると、大都市(10都市)は▲0.2%と10カ月ぶりに前年同月比マイナスに転じた。高額消費とインバウンドの割合が高い札幌、東京、名古屋、大阪、福岡は前年比プラスであったが、他の地域は苦戦した。

商品別にみると好調なのは化粧品(38カ月連続プラス)、雑貨(18カ月連続プラス)、美術・宝飾・貴金属(14カ月連続プラス)。一方、家庭用品(29カ月連続マイナス)、食料品(12カ月連続マイナス)、衣料品(6カ月連続マイナス)は不調だ。

今後(2018年11月頃まで)の見通し

雇用環境の改善(失業率の低下)や賃上げ、旺盛な訪日外国人消費など、経済全体では明るい材料もあるものの、小売業自体は当面厳しい状況が続く見通しである。

内閣府が発表した2018年5月の『景気の現状判断DI(小売関連)』は前月比▲2.9ポイントの43.7となり、横ばいを示す50を大幅に下回った。先行きを示す『景気の先行き判断DI(小売関連)』についても、47.4と50を下回り、前月(49.8)からも悪化した。5月時点の判断理由としては、「カテゴリーごとの好不調はあるものの、全体としては大きな変化はないと予想している。インバウンド需要が堅調な動きを見せる一方、国内需要の伸び悩みが懸念される。これから夏にかけてギフト需要が高まるはずだが、主力のターゲット層が徐々に減ってきており、大きな伸びは期待できない。インバウンドの取り込みがいつまで続くかがポイントと思われる(百貨店)」、「先の見通しが立たない客も結構いるので、ボーナスが出たとしても、なかなか買おうという感じではない」といったように経済全体の明るい話題もなかなか小売業の収益につながっていないとの意見が見られた。小売事業者としては、引き続き徹底的な合理化(出店の抑制と店舗の統廃合・業態の見直しを含む)を進めるとともに、比較的好調な商品領域の強化や、旺盛な訪日外国人の消費を積極的に取り込むなどして、収益改善につなげたい。

取引深耕のポイント

新卒者の採用をどのように考えているか。
法令遵守や社会保険への加入に対して、経営者はどのような方針を示しているか。
アルバイトやパートの維持や確保にどのような策があるか。
クレーム対処の方法があるか。
消費者の高齢化に対して、どのような取組みを行っているか。
訪日外国人の増加に対して、どのような取組みを行っているか。
適性に応じて、女性や海外人材など多様な人材の活用を推進しているか。
CDや医薬品などネット販売の影響を受ける小売店は、どのような対策を立てているか。
スマートフォンなど新たなメディアを活用した販売促進に取り組んでいるか。
東京五輪や政府の成長戦略、その他政府主導の施策(プレミアムフライデー等)に関連してどのような商機があるか。
(株式会社 日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 高津 輝章)