小売業ガイダンス

業界総括

小売業界は依然として不透明な状況が続いている。ウクライナ情勢を受けた資源価格上昇と円安による物価高など、マクロレベルでは小売事業者にとってマイナス面の影響が大きくなっている。もっとも、新型コロナウイルス感染症の感染者数は減少傾向で安定しており、人々の動きは戻りつつある。他方で、コロナ禍を契機として増加した内食需要やテレワーク対象者をターゲットとした商機なども引き続き存在する。各事業者は景気動向や直近の感染状況を注視しつつも、アフターコロナの新たな消費者行動パターンの浸透などを見据えて、中期的な観点から経営スタイル、ターゲット顧客、自店舗が訴求する価値の見直しを進めていく姿勢が求められる。また、今後の景気下振れによる需要の減退も見据え、引き続き経営の合理化に努めるとともに、業態転換・統廃合を含む店舗戦略の見直しを行うことも選択肢となる。

現状の業界動向

(1)スーパーの動向

全国のスーパーなどが加盟する日本チェーンストア協会会員企業の2022年4月度の総販売額は1兆688億円で前年同期比▲1.2%(全店ベース)と前年水準を下回った。コロナ禍で内食需要は堅調に推移してきたが、ここにきて伸びは鈍化しており、食料品は前年同期比▲0.3%と微減となった。他方、衣料品は外出機会の拡大等を反映し、プラス(同+2.9%)となった。イエナカ需要から好調に推移してきた住関品は大幅減少(同▲9.7%)となった。

なお、既存店ベースでみた場合には、2022年4月度総販売額は+2.1%と、前年同月比プラスとなった。

アフターコロナに向かう中で、比較的底堅いものの内食需要などに変調がみられるところ、原材料高から食品の値上げも相次いでいる。今後、コロナ過でも堅調に推移してきたスーパーの需要が試される形となる。

(2)コンビニの動向

一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会が公表している統計データによると、2022年4月度のコンビニエンスストア売上高(全店ベース)は9,049億円で前年同月比+2.6%と5カ月連続のプラスとなった。来店客数は前年同期比▲0.2%と微減であったが、平均客単価が前年同期比+2.8%とプラスとなった。引き続き弁当、総菜、デザートなどが好調に推移したことに加えて、平均気温が高かったことから飲料、アイスクリームなども好調であった。

コロナ禍を経た消費者行動の変化は、コンビニエンスストア業界の店舗戦略にも影響を与える。在宅勤務の浸透によって、通勤途中や仕事の休憩時間の利用が大きく減少するなど、これまでとは人の流れが変わる中で、誰に対してどのような価値を訴求していくか、再考を迫られている。例えばセブンイレブンでは、スマートフォンで注文すると店舗から商品を配達するサービスを開始しており、順次拡大していく予定。ローソンも料理宅配サービス「ウーバーイーツ」などのフードデリバリーサービスアプリ経由での注文を受け付けることができる店舗を増やしている。また、ファミリーマートが2024年度末までに無人店舗を1,000店舗出店する計画を発表するなど、ウィズコロナ/アフターコロナを見据えた新たな業態へのチャレンジもはじまっている。

(3)百貨店の動向

日本百貨店協会によると、2022年4月の全国百貨店の売上高は3,778億円で、前年同月比+19.0%(店舗調整後)となった。新型コロナウイルス感染症の感染状況が落ち着きつつあった中で、入店客数が前年同月比+18.7%と大きく伸びた。前年に緊急事態宣言等による営業時間制限などがあったことの反動増や、気温が高く春夏物商材が好調に推移したことが貢献した。エリア別の内訳としては、大都市(10都市)売上高は前年同月比+24.0%、10都市以外は同+6.9%となっており、前年の落ち込みが大きかった都市部でプラス幅がより大きくなっている。

商品別にみると、衣料品が2カ月連続プラス、身のまわり品、雑貨、食料品が7カ月連続プラス、家庭用品が3カ月ぶりプラスと、主要品目が軒並みプラスで推移している。

入国制限の影響を受ける訪日外国人関連のインバウンド売上は引き続き低迷しており、売上高はコロナ前の2019年同月比▲80.6%となった。こちらもようやく試験的に外国人観光客の受入れが再開されたところ、今後の動向並びに百貨店経営への影響が注視される。

今後(2022年11月頃まで)の見通し

マクロ環境としての景気悪化懸念はあるものの、新型コロナウイルス感染症の落ち着きによって人々の活動は戻りつつあることから、景況感は引き続き回復基調を維持している。

内閣府が発表した2022年5月の『景気の現状判断DI(小売関連)』は50.2と前月比+2.5ポイント改善し、横ばいを示す50.0を若干上回った。

また、先行きを示す『景気の先行き判断DI(小売関連)』についても前月比+1.9ポイント改善し、49.9と50.0には届かないものの回復基調を維持した。

5月時点の先行き判断理由としては、「いよいよ東京都でも都民割がスタートすることになり、インバウンド受入れ等のニュースもあることから、期待したい(百貨店)」、「新型コロナウイルスの感染が再拡大しない限り、順調に回復基調が続く。ただし、ロシアの問題や材料費の高騰、商材によっては品薄というチャンスロスのリスクも抱えている。それらをクリアできれば、やや良くなる(商店街代表者)」、「街のイベントが復活して、気持ちが前向きになるにつれて、購買意欲も湧くのではないかと期待している(一般小売店)」など、ウクライナ情勢などによる景気悪化の動向を注視しつつも、新型コロナウイルス感染症の感染状況の落ち着きを背景に引き続き消費が拡大することを期待する声も多く見られた。

小売事業者としては、景気動向や新型コロナウイルスの直近の感染状況に留意しつつも、本格的なウィズコロナ/アフターコロナ時代の到来を見据えた新たな経営スタイルの模索や、日々変化するニーズへの迅速な対応で粘り強く売上拡大に努めることが求められる。

取引深耕のポイント

政府の政策・景気刺激策への対応を進めているか。
法令遵守や社会保険への加入に対して、経営者はどのような方針を示しているか。
アルバイトやパートの維持や確保にどのような策があるか。
クレーム対処の方法があるか。
消費者の高齢化に対して、どのような取組みを行っているか。
新型コロナウイルス感染防止対策として、どのような取り組みを行っているか。
適性に応じて、女性や海外人材など多様な人材の活用を推進しているか。
ネット販売の影響を受ける小売店は、どのような対策を立てているか。
スマートフォンなど新たなメディアを活用した販売促進に取り組んでいるか。
ウィズコロナ/アフターコロナ時代を見据え、どのような経営改革を進めているか。
(株式会社 日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 高津 輝章)