経済概況と企業経営への影響

世界経済概況:ロシアのウクライナ侵攻などによる影響

国際通貨基金(IMF)は、2022年4月に『世界経済見通し』を発表した。この見通しでは、世界の2022年のGDP成長率は2022年1月時点の4.4%の予想から3.6%へと引き下げられており、2023年のGDP成長率も3.8%の予想から3.6%に引き下げられている。

見通しが下方修正された最大の要因はロシアによるウクライナ侵攻とそれに関連するロシアへの制裁措置であり、新型コロナウイルス感染症拡大による中国でのロックダウン状況も影響を与えている。これはあくまで4月時点の見通しであるため、ウクライナでの戦況とロシアへの制裁措置、中国のゼロコロナ政策の動向次第ではさらに悪化するおそれがある。世界的な物価の高騰はしばらく続く可能性があり、各国の政策当局・中央銀行による対応にも注目が集まっている。

世界経済トピックス:米国経済の行方

IMFの2022年4月『世界経済見通し』によると、米国の実質GDP成長率は、2021年に+5.7%と推定されており、前回2022年1月の見通し(改定見通し)から0.1%上方修正された。一方で2022年は+3.7%と予測されており、前回の見通しから0.3%下方修正されている。また、2023年は+2.3%と予想されている。

米国経済は物価の高騰に直面しており、2022年5月のCPI(消費者物価指数)は前年同月比+8.6%と市場予測の+8.3%を上回る結果となった。これはピークと見られた同年3月の+8.5%を超える水準であり、金融市場に大きな変動をもたらしている。これに対してFRB(連邦準備制度理事会)が利上げのペースを引き上げるのではないかという予測も出るなど、FOMC(連邦公開市場委員会)の決定に注目が集まっている。

世界経済トピックス:欧州経済の行方

IMFの2022年4月『世界経済見通し』によると、欧州(ユーロ圏)の実質GDP成長率は、2021年に+5.3%と推定されており、2022年1月の見通し(改定見通し)から0.1%上方修正されている。一方で2022年は+2.8%と予測されており、前回の見通しから1.1%下方修正されている。また、2023年は+2.3%と予想されている。

2022年6月15日現在(執筆時点)、欧州ではロシアによるウクライナ侵攻を巡って緊張状態が続いている。こうした地政学的リスクの高まりが世界的なインフレーションと重なることで、経済活動にさらなる悪影響が広がっている。

世界経済トピックス:中国経済の行方

IMFの2022年4月『世界経済見通し』によると、中国の実質GDP成長率は、2021年に+8.1%と推定されている。2022年は+4.4%と予測されており、前回2022年1月の見通し(改定見通し)から0.4%下方修正されている。また、2023年は+5.1%と予想されている。

中国ではゼロコロナ政策の下、2022年3月28日から約2カ月に渡って上海市がロックダウン(都市封鎖)され、景気回復の足かせとなった。その後封鎖は解除されたものの、2022年6月15日現在(執筆時点)において再封鎖の憶測が飛び交うなど、正常化まで時間を要する可能性もある。

日本経済概況:マクロ経済動向

内閣府によると、日本の2022年1~3月期の実質GDP成長率(2次速報値)は前期比▲0.1%、年率▲0.5%であり、1次速報値の前期比▲0.2%、年率▲1.0%より改善したものの、マイナス成長となっている。また、IMFの2022年4月『世界経済見通し』によると、日本の実質GDP成長率は、2021年は+1.6%と推定されており、2022年は+2.4%、2023年は+2.3%と予想されている。

また、日本銀行が2022年4月に公表した『経済・物価情勢の展望』では、日本経済の先行きについては、「ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、新型コロナウイルス感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみられる。その後は、資源高のマイナスの影響が減衰し、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まっていくなかで、わが国経済は、ペースを鈍化させつつも潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる」とある。先行きの物価については、「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、携帯電話通信料下落の影響が剥落する 2022 年度には、エネルギー価格の大幅な上昇の影響により、いったん2%程度まで上昇率を高めるが、その後は、エネルギー価格の押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくと予想される。この間、変動の大きいエネルギーを除いた消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率・賃金上昇率も高まっていくもとで、食料品を中心とした原材料コスト上昇の価格転嫁の動きもあって、プラス幅を緩やかに拡大していくとみられる」とされている。

日本経済トピックス:新型コロナウイルス関連倒産の発生

帝国データバンクが2022年6月14日に公表した調査によると、「新型コロナウイルス関連倒産」は全国で3,527件判明している。うち、業種別には「飲食店」が542件、「建設・工事業」が431件、「食品卸」が179件、「ホテル・旅館」が148件と上位を占めている。

倒産企業のうち、負債が1億円未満の小規模倒産が2,068件と全体の58.6%を占める一方、負債が100億円以上の大型倒産は6件と全体の0.2%に留まっている。

日本経済トピックス:日本政府による対応

首相官邸によると、2022年6月15日時点において、日本国内のワクチンの総接種回数は2億8,284万回を突破しており、1回以上接種完了者が全体の81.9%、2回以上接種完了者が全体の80.7%、3回以上接種完了者が全体の60.7%に達しており、4回目の接種が始まっている。

直近では入国制限の緩和に伴い訪日外国人観光客の受け入れの拡大が始まった。新型コロナウイルス感染症の再度の流行拡大に注意して引き続き感染症対策を講じつつも、インバウンド需要復活への対応が始まっている。

(株式会社 日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 コンサルタント 渡部 周)