製造業ガイダンス

業界総括

製造業全体としての業績は回復しつつある。競争力強化のため、政府や大企業を中心にIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の産業活用に向けた取組みが加速している。中小企業各社には政府等の支援施策を活用しつつ、IoTへの的確な投資が求められる。

現状の業界動向

(1)直近の業績は悪化。特に鉄鋼業の業績悪化が目立つ。一方で食料品業は好調

最新の財務省『法人企業統計』によると、直近1年(平成28年4月~平成29年3月)の製造業の売上高は前年同期比▲1.1%、経常利益は同9.8%である。業種別に見ると、中国企業による供給過剰の影響を強く受ける鉄鋼業の業績悪化が目立つ。一方で、食料品業は消費者のプレミアム志向の高まりを受けて、好調な結果となった。

(2)IoTの産業活用に向けた取組みが加速

平成28年4月末に独国で開催された産業見本市「ハノーバーメッセ(HANNOVER MESSE)」において日独経済フォーラムが開催された。そのなかで、日・独の両国はIoTの産業活用に関する次の6項目で協力を進めるとして、MOU(Memorandum of Understanding:覚書)を交わした。

産業向けサイバーセキュリティ
国際標準化
規制改革
中小企業に対するIoT利用の支援
IoTおよびインダストリー4.0に対する研究開発
人材育成

これを受けて、平成29年3月末に独国ハノーバーで開催された欧州最大のIT(情報技術)見本市「CeBIT(セビット)」では日本がパートナー国を務め、118の企業・団体が世界に向けて魅力を発信した(これまでは10社程度であった)。出展企業はトヨタ自動車や日立製作所などの大手企業だけでなく、中小・ベンチャーが半数以上を占めていたのも特徴的である。中小・ベンチャーが欧州市場へ進出する足がかりとなることを期待されている。

また、CeBITに併せて、両国は「ハノーバー宣言」を採択した。これは、上記MOUを拡大するものであり、「自動車産業」「情報通信分野」「プラットフォーム」の3項目を加えた9項目でより実践的な協力関係を推進していく。

「中小企業支援」が「ハノーバー宣言」の協力項目の一つであるように、中小企業の実践なくして、IoTの産業活用は実現困難である。つまり、中小企業にとっては、いち早く体制を整えることがビジネス機会の獲得に繋がるだろう。政府や各団体が積極的に支援を推進している今こそ、IoTへの的確な投資が求められる。

今後(平成29年11月頃まで)の見通し

(1)設備投資は増加傾向。国内投資の目的が量から質へ

前掲『法人企業統計』によると、製造業における平成28年4月~平成29年3月の設備投資額は前年同期比4.0%の増加となった。また、日本政策投資銀行『設備投資計画調査』によると、設備投資の動機を「新製品・製品高度化、合理化・省力化、研究開発」とする割合が平成20年度の30.5%から平成28年度には38.3%(計画ベース)まで増加している。一方で、「能力増強」を動機とする割合は40.4%(平成20年度)から24.3%(平成28年度、計画ベース)へと大幅に減少している。投資の目的が単なる増産から“質”を高める方向へと変わっているといえよう。直近でもJTや日立化成が研究所の新設を発表するなど、引き続き上記の傾向が続くと考えられる。

(2)海外経済のリスクへの対応

多くの企業がグローバルに事業を展開する製造業において、米国経済・中国経済・EU経済の行方は各社の業績に大きな影響を与える。特に、平成29年は欧州で主要な選挙が控えており、結果によってはEU経済が混乱する可能性もある。また、トランプ大統領による各種大統領令が日本の製造業に与える影響も大きい。各種リスクに対応できるように、事業のポートフォリオを構築しておく必要がある。

取引深耕のポイント

他社が容易にまねできない独自技術を持っているか。
自社の強みをどのようにアピールしているか。
環境関連や高齢者向け商品など時流に合った商材にどのように取り組んでいるか。
海外情勢に対して、どのような対応を考えているか。
適性に応じて、女性や海外人材など多様な人材の活用を推進しているか。
為替相場の動向が当該企業にどのような影響を及ぼすか。
今後、震災などが発生しても、複数の仕入先のルートが確保されているなど、部品供給網(サプライチェーン)が寸断されないような対策を講じているか。
法令遵守に対して、経営者はどのような方針を示しているか。
(株式会社 日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 コンサルタント 小林 幹基)