製造業ガイダンス

業界総括

ワクチンの普及やコスト削減の効果によって業績は回復傾向にあるものの、先行きは不透明。中小企業各社には「2050年のカーボンニュートラルを見据えた変革」および「デジタル・トランスフォーメーション(DX)の取り組みの加速」が求められている。

現状の業界動向

(1)ワクチンの普及やコスト削減の効果によって業績は回復傾向も、先行きは不透明

最新の財務省『法人企業統計』によると、2021年度(2021年4〜2022年3月)の製造業の売上高は前年同期比111.7%、経常利益は同164.6%と増収・増益となった。また、新型コロナウイルス禍の発生以前(2019年4月〜2020年3月)と比較しても、売上高は100.5%、経常利益は157.6%となり、新型コロナウイルス禍の発生以前の状況に戻りつつあると言える。ワクチンの普及による世界経済の活動再開とともに、新型コロナウイルスをきっかけとした各企業のコスト削減の効果が出てきている。とはいえ、上海のロックダウンに見られる中国のゼロコロナ政策やロシア・ウクライナ問題など、今後の先行きは不透明である。

(2)2050年のカーボンニュートラルを見据えた変革

2021年10月に発足した岸田政権は、菅前内閣総理大臣による「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする“カーボンニュートラル”を目指す」との宣言を引き継ぎ、「カーボンニュートラルの実現」を4つの成長戦略の中の一つとして位置付けている。この中で、例えば「自動車の電動化推進」を掲げており、2035年までに新車販売で電動車100%を実現するために各種施策を推進している。自動車産業をはじめ、すでに、サプライヤーに対してCO2削減目標などを課している大手企業も多く、中小企業各社には自社が属する産業の目標や取り組みを念頭におきながら、先んじて変革していくことが求められる。

(3)デジタル・トランスフォーメーション(DX)の取り組みの加速

経済産業省、厚生労働省、文部科学省が共同で取りまとめた「2022年版ものづくり白書」が5月に閣議決定された。その中で、事業環境変化として「カーボンニュートラルの実現及び人権尊重に向けた取組」とともに、「DXによる競争力向上」をあげている。“DX(デジタル・トランスフォーメーション)”とは、「アナログ情報のデジタル化」や「デジタルツールの導入」ではなく、「デジタルテクノロジーを用いて、外部環境の変化への対応や組織・文化・従業員の変革を行い、新たな顧客体験・付加価値の創出により、競争優位性の源泉の確立を実現すること」を指している。現状、中小企業においてDXの取り組みが充分に進んでいるとはいえず、言い換えると、先手を打つことで優位にビジネスを展開できる可能性がある。まずは、デジタルテクノロジーの視点で自社のビジネスを俯瞰しながらトランスフォーム(変革)の要因を特定すること、そして、顧客中心のビジネスをデザインすることが求められる。「地域DX促進活動支援事業」や「IT活用促進資金」など、DX推進に係る国の支援が手厚い今こそ取り組みを加速させたい。

今後(2022年11月頃まで)の見通し

(1)2022年中に半導体不足は解消する見込み

米中貿易摩擦を発端に2020年頃から世界的に半導体が不足。新型コロナウイルスによる生産停止やテレワーク等による電子機器の需要増が相まって、不足に拍車がかかっていた。しかしながら、ウィズコロナ社会への移行とともに、各社が積極的に設備投資をした結果、米AMD社や米NVIDIA社など大手半導体メーカーは、2022年中に半導体不足は解消するとの見通しを示している。

(2)豪雨による被害対策の強化

2018年6~7月に西日本を中心に記録的な豪雨に見舞われたのは記憶に新しい。当時、当該地域にある多くの工場は操業の一時停止を余儀なくされた。これは、直接的な被害を被っただけでなく、設備の点検や従業員の安全確保のために停止せざるを得ない状況に追い込まれたからだ。また、当該地域の物流網が分断されたことで、その被害は全国的なものとなった。地震大国である日本において、地震に対する備えを定めた“BCP(Business Continuity Planning、事業継続計画)”を強化している企業は多いが、台風や大雨による水害に対する備えを定めた“BCP”を強化している企業は少ない。今年も台風の季節がやってくる中で、想定外の水害に見舞われる可能性もある。中小企業各社は、改めて水害に対する“BCP”も強化し、万が一の際に適切な行動がとれるようにしておく必要がある。

取引深耕のポイント

他社が容易にまねできない独自技術を持っているか。
自社の強みをどのようにアピールしているか。
環境関連や高齢者向け商品など時流に合った商材にどのように取り組んでいるか。
海外情勢に対して、どのような対応を考えているか。
適性に応じて、女性や海外人材など多様な人材の活用を推進しているか。
為替相場の動向が当該企業にどのような影響を及ぼすか。
今後、震災やパンデミックなどが発生しても、複数の仕入先のルートが確保されているなど、部品供給網(サプライチェーン)が寸断されないような対策を講じているか。
法令遵守に対して、経営者はどのような方針を示しているか。
(株式会社 日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー 小林 幹基)