建設業ガイダンス

業界総括

2022年度の建設投資は、新型コロナウイルス感染症の影響からの回復がみられるものの、ウクライナ危機等の影響で建設資材が高騰。中小企業のコロナ融資後倒産が増加しており、各社の状況には注意が必要。2022年度は民間非住宅投資を中心としてゆるやかな回復が見込まれている。今後は、時間外労働の罰則付き上限規制適用に向けデジタル化が加速。また、新しい資本主義の実現に向けて、国土強靭化・PPP/PFI等が引き続き推進される。

現状の業界動向

(1)民間非住宅投資が堅調、政府建設投資は減少する見込み

建設経済研究所は、2022年4月、2022年度の建設投資見通しを公表。前年度比0.5%の増加を予測。前回2022年1月の2022年度見通しは0.5%の増加を予測していたため、先行きは一層好転していることがうかがえる。政府建設投資は同▲1.9%の減少、民間投資は住宅投資が同▲1.5%の減少を予測している一方、民間非住宅投資は同4.5%増の見通しである。政府投資は、2020年度第3次補正予算に係るものの一部が2022年度に出来高として実現すると想定したほか、「防災・減災、国土強靭化加速化計画」をはじめとした関係省庁の予算額の内容を参考として事業費を推計している。民間投資は、住宅需要の回復が一服し、前年度から微減すると予測。一方、非住宅投資については、設備投資持ち直しの動きから、堅調に推移すると見込む。一方、ウクライナ情勢による原油や資材の価格高騰の影響が徐々に現れることも懸念されることから、動向に注視する必要があるとしている。

(2)2022年4月の下請企業受注高は大幅減少

『建設工事受注動態統計調査報告』(国土交通省、令和4年4月分確報、2022年6月公表)によると、2022年1月から4月の受注高は前年同期比0.8%増の37.3兆円。元請企業の受注高は同5.2%の増加、下請企業受注高が同▲7.4%の減少となっている。新型コロナウイルス感染症発生以降に激減していた元請・下請企業の受注高は回復基調にあったが、2021年8月以降はほぼ横ばいで推移。特に、2022年4月の下請企業受注高は同▲28.1%の大幅な減少となっており、今後の動向に注意が必要。

(3)建設業においてもコロナ融資後倒産が増加

2022年6月、帝国データバンクは、「コロナ融資後倒産」の集計結果を公表。政府系金融機関や民間金融機関による実質無利子・無担保融資を受けた後に倒産した会社の累計は、2022年5月までに全業種で323件。そのうち建設業は61件で、製造業の67件、卸売業の65件に次いで多い。また、建設業では住宅建築など幅広い業種で発生がみられるという。返済原資の確保や金融機関から追加の融資も難しい中小企業で、最終的に資金繰りに行き詰り事業継続を諦める経営破たんが目立ち始めていると帝国データバンクは指摘しており、今後の動向に注意が必要。

(4)建設資材の高騰続く。2022年1月は2015年度対比約40%高の水準

コロナ禍からの回復とサプライチェーンの混乱・ウクライナ危機を受けて、引き続き全国的に資材価格が高騰している。一般財団法人経済調査会による2021年5月の建設資材価格は、2015年度を100とした指数で145.3まで上昇。2022年3月以降、140を上回る月が続いており、過去最高値の水準が続いている。都市別には、高松の指数が最も高く169.9。大阪が167.4、福岡が147.5と続く。2020年度までは100〜110の間で推移してきたところ、工期や経営への影響が懸念される。今後も建設資材の高騰は続くと見込まれるが、米国等各国が利上げを実施、住宅建設が減少し始めている状況下、景気が後退する可能性もあり、状況の注視が求められる。

今後(2022年11月頃まで)の見通し

(1)時間外労働の罰則付き上限規制適用に向けデジタル化が加速

2022年6月13日、竹中工務店は、建築物の設備施工管理記録を自動作成し、一元管理する新システムを開発したと発表。BIM(建築物に関する情報のモデリング手法)とiPad、デジタル試験器を連携させ、スリーブ検査・配管圧力試験等で業務量を20~25%を削減できるという。2024年4月には、建設業にも時間外労働の罰則付き上限規制が適用される。各社はそれまでに、試験・検査業務などの業務効率を改善し、時間外労働の抑制に向けた取組を推進する見込み。

(2)国土交通省が、港湾工事の技術開発促進に向けた新制度創設へ

2022年6月8日の日刊建設工業新聞報道によると、国土交通省は港湾工事で活用できる新技術の開発を促進するため、直轄工事への導入を前提として民間に技術開発の提案を募集する新制度を創設する。本制度の創出により、民間企業の港湾工事の技術開発投資を活発化させたい意向。年度内に制度設計を具体化する。2023年度以降の運用開始を予定している。

(3)新しい資本主義の実現に向けて、国土強靭化・PPP/PFI等を推進

政府は6月8日、新しい資本主義の実現に向けたグランドデザイン・実行計画を決定。国土強靭化政策に関しては、デジタル田園都市国家構想の前提となる安心の確保として、防災・減災、国土強靱化施策に必要・十分な予算を確保すると明記している。国土強靱化基本計画、5カ年加速化対策(~2025年度)に基づき、ハード・ソフト一体となった取組を推進するとともに、2023年末を目途に、ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会等において、次期「国土強靱化基本計画」の検討を行う。また、官民連携の強化策として、PPP/PFIの活用拡大を目指しており、各社の取組拡大が期待される。

取引深耕のポイント

新卒者の採用をどのように考えているか。
法令遵守や社会保険への加入に対して、経営者はどのような方針を示しているか。
適性に応じて、女性や海外人材など多様な人材の活用を推進しているか。
アルバイトやパートの維持や確保にどのような策があるか。
クレーム対処が体系化されているか。
インフラ工事、エレベーター改修工事、特定天井など、今後発展が見込める工事を得意としているか。
需要が増加している高度経済成長期に建設された公共設備などへの改修工事が得意か。
BCPの取組みをしているか。
生産性向上・情報化に向けた取組みを推進しているか。
東京五輪や政府の成長戦略に関連してどのような商機があるか。
(株式会社 日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 田中 靖記)