建設業
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冷暖房設備工事業

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景気予測お天気マーク

曇り晴れ
横
曇り晴れ

このシグナルは、現状から今後6ヵ月間の見通しを短評。

許可取得要件が2020年10月に緩和されたため、取得業者は増加が続くことが想定される。一方で、経営者の高齢化や職人不足のため、廃業数も少なくない。エアコン取替工事を中心に行っている業者は、季節変動や夏場の気温上昇が売上高に大きな影響を及ぼすため、季節ごとの繁閑差が非常に大きい。コロナ禍で家庭用エアコンは前年を上回るも、業務用は低迷している。(2021年11月改訂/日本マルチメディア・イクイップメント㈱・高田守康  http://www.jmenet.com

管工事業

許可業者数

対前年伸び率

建設業全業種
対前年伸び率

2018年度

85,578

1.3%

3.0%

2019年度

86,632

1.2%

2.8%

2020年度

87,403

0.9%

2.0%

資料:国土交通省『建設業許可業者数調査の結果』(2021年5月公表)

(※)1社が複数の建設業許可を取得することができるため、企業の増減数と一致しないことがある。

業界動向

1現在の空調設備に求められているのは、省エネルギーに対応した技術であり、当業界事業者の戦略も地球環境保全のための取組みにシフトしている。

2節電に伴う空調機の入れ替えなども業界動向を引き上げる要因になるため、『住宅省エネリノベーション促進事業』や『ネット・ゼロ・エネルギーハウス支援事業』などの政府の施策による効果も期待したい。

32020年10月の建設業法改正で建設業許可を取得する際の経営業務管理責任者の要件が緩和された。

42020年後半からアメリカや中国での住宅建築需要の回復を発端としたウッドショックが発生した。建設業界では木材だけでなく様々な建材価格が高騰しており、材料費の割合が多い建設会社の収益性に悪影響を及ぼしている。

5日本人の若手入職者が少ないため、外国人技能実習生を採用している業者も多い。2020年は新型コロナウイルス感染症のため入国者は減ったが、実習生の総数は増加している。

業態研究

1冷暖房設備工事業は、管工事業の一分野である空調設備工事を主に行う形態であり、建設業許可29業種の一つである「管工事」業種に相当する。さらに家屋・その他の施設の敷地内の配管工事および上水道等の配水小管を設置する工事も『管工事』であり、敷地外の公道下等の下水道の配管工事および下水処理場自体の敷地造成工事は『水道施設工事』と『土木一式工事』である。(2001年4月「建設業許可事務ガイドライン」による分類)

2冷暖房設備工事業の基本的な市場である生活・一般住居・オフィス空間の空調設備においては、標準化や規模の経済の可能性から、家電メーカーのこの分野への進出を許している。しかし、産業用空調の分野では、要求される技術の高度さとその開発技術のノウハウ蓄積の必要から、ごく限られた範囲を除いて、専門業者の地位を新規参入業者が侵すところまでには至っていない。

■ 経営形態

 管工事の従業者構成は下表のとおりである。

業種別就業者数

管工事業

建設業

就業者数

従業者数

常雇等

臨時・日雇

労務外注

労働者数

2019年度

209,824

197,387

193,955

3,432

12,437

構成比

7.0%

7.0%

7.0%

4.3%

7.1%

前年度比

▲2.2%

▲3.3%

▲3.2%

▲9.4%

20.5%

資料:国土交通省『建設工事施工統計調査報告』(2019年度実績)

■ 受注形態

 受注構造は、①発注者から直接受注するケース(分離発注方式)と、②ゼネコンや工務店が顧客から一括受注したもののうち空調工事部分を下請として受注するケース(下請発注方式)、③サブコンが受注した空調工事を孫請として受注する工事案件などに区分される。また、材工で請け負う場合と、手間のみ請け負う場合にも区分される。官公庁工事やPFI事業、民間の大型事業などでは分離発注方式が多く行われているが、小規模の民間工事などでは下請受注のケースが多くなる。クリーンルームなど生産設備の空調設備工事においては、生産システムの技術的高度化に伴い、計画段階から顧客と共同の作業を要求されることから、元請受注するケースが増加している。住宅ではエアコンが大部分を占めるため空調工事は無く、非住宅の大型建築(1万㎡以上)が空調工事の主たる市場となる。官民比率は、大手で官庁30%・民間70%、中小で官庁22%・民間78%が一応の目安となる。受注に関わる市場規模は下表のとおりである。

発注者別(民間発注と公共発注)の元請完成工事高 (単位:百万円)

管工事業

総数

民間発注工事

公共発注工事

2017年度

元請完成工事高

2,150,456

1,693,549

456,907

前年度比

▲3.2%

▲2.9%

▲4.2%

2018年度

元請完成工事高

2,277,883

1,814,298

463,585

前年度比

5.9%

7.1%

1.5%

2019年度

元請完成工事高

2,461,491

1,982,299

479,192

前年度比

8.1%

9.3%

3.4%

資料:国土交通省『建設工事施工統計調査報告』(2019年度実績)

■ 営業の特色

 主力の建築物(住居、非住居)に付帯する冷暖房設備は工事範囲が広く、主として冷暖房設備、空気調節装置、換気装置、温湿度調節装置、乾燥装置、製氷装置、冷凍冷蔵装置、冷却塔などを担当する業種である。場所、建物の種類によって仕様が異なり、工事ごとに見積り、受注活動が行われる。営業内容としては、施工自体と、それに続くアフターサービス、メンテナンスとがある。

■ 経営事項審査

1公共性のある施設や工作物の建設工事(公共工事)の入札に参加するには、建設業許可を取得したうえで、経営事項審査(経審)を毎年受審することが義務付けられる。経審は、経営規模(完成工事高・自己資本額)・経営状況・技術力・その他(社会性等)の5項目で客観的な評価を行う。さらに国や都道府県、規模の大きな地方自治体は、資格審査制度を実施している。資格審査では、工事成績や安全対策、社会貢献など発注機関ごとにそれぞれ異なる発注者別評価点を算出し、経審評点と合計した点数で格付け(Aランク、Bランク…)を実施している。

2近年は、一般競争入札の普及に伴い「総合評価落札方式」を取り入れる発注機関が増えてきたため、個々の入札に際しても技術提案が求められている。

流通・資金経路図

営業推進のポイント

■ 売上の見方

 帝国データバンク『第63版全国企業財務諸表分析統計』令和1年度・令和2年11月発行(管工事業)によれば、売上に関する主な指標は次のとおりである。

   1人当たり売上高  36,821千円

   売上高増加率  9.34%

■ 採算の見方

1前掲『第63版全国企業財務諸表分析統計』によれば、採算に関する主な指標は次のとおりである。

   総資本経常利益率  6.12%

   売上高総利益率  31.79%

   売上高営業利益率  2.93%

   売上高損益分岐点倍率  1.14倍

2売上、収益、採算とも、工事種類、受注形態により異なる。特に、下請工事主体の場合、中小零細企業が多く、受注競争が激しい。そのため、採算を度外視した受注もあるので、売上のみを鵜呑みにして経営内容を類推することは、避けなければならない。

■ その他の着眼点

 前掲『第63版全国企業財務諸表分析統計』によれば、効率性・安定性に関する主な指標は次のとおりである。

   総資本回転期間  8.80月

   固定資産回転期間  3.04月

   自己資本比率  31.71%

   流動比率  274.07%

■ 取引深耕のためのチェックポイント

1どんな元請業者、またはメーカーの系列に属しているか。それとも独立企業か。

2安定した受注残が確保されているかどうか。

3経営トップが経営理念を持っているか。

4発展、成長産業を市場、顧客として捉え、また取引しているか。

■ ビジネスマッチングの着眼点

1冷暖房設備工事業者の中には、専門工種の他に類似する工種まで幅を広げる多能工化に取り組んでいる業者も増えてきている。工種の幅が広がったことをアピールすることも含めて、これまで取引していなかった建設会社などへの紹介もビジネスマッチングの支援となる。

2下請で工事を受注することが多かった専門工事業者の中には、受注する工種の幅を広げながら元請で受注する割合を高めるケースも増えてきている。そういった専門工事業者への紹介もビジネスマッチングとしては有効な支援になる。

3断熱性能の向上に係わる取り組みである『ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)』や『ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)』、『HEMS(ホーム エネルギー マネジメント システム)』に取り組むのは建設業に限らず、製造業でも多い。新たな連携も期待できる。

融資判断のポイント

■ 事業性評価のポイント

1積極的に工事を取りにいくための、施主との分離発注の折衝や他の装置も含めた一式受注の実績などをチェックし、将来展望が描けているか、技術・資力を中心に対応力をみることも大事な要素である。

2収益確保には価格交渉力がものを言う。原価計算を正確に行い、営業最前線での個々の交渉局面で活用されているか。そのための教育がなされているか。

3これらを踏まえたうえで、以下の動向に留意する。

 (1)経営者や営業担当者が引合や受注の増加を意識し、積極的に営業に取り組んでいること。

 (2)安定して受注できる工事量は、自社で施工できるだけの職人が確保できていること。

 (3)引合情報が判り易い状況で把握できていて、先々の受注見込が明確であること。

 (4)工事毎の粗利益が把握できる体制があり、振り返りなどの改善に活かしていること。

 (5)資金繰りが把握できる体制があり、早めに資金調達の対策が打てる状態であること。

■ 運転資金

1所要資金の妥当性

 他産業に比べると営業上の立替負担は金額的には少ない。工事完成後の完成工事未払期間が長いようであれば不良債権に近いと判断する。こうした点は工事進捗状況表等で確認できる。あいまいな資金使途での需資には慎重に対応したい。

 資金使途は、工事立替資金、決算賞与資金が主体である。貸出科目、要因との関係を図解すれば、次のとおりである。

資金使途

貸出科目

要 因

工事立替資金

手形貸付

証書貸付

手形割引

労務1人当り、材料費支払

労務1人当りは現金払、材料費は半手半金が一般的である。

決算賞与資金

手形貸付

証書貸付

納税、役員賞与、配当金、従業者賞与支払で、現金払である。

 工事立替資金は、出来高での工事代金回収に対し工事費支払が先行することにより生ずる資金である。受注工事の明細、工事進捗状況、工事代金回収状況、工事費支払状況を調査し、立替負担金額が妥当であるかどうかを確認する。

 手形割引の場合は、振出人の信用度とともに手形成立要因を調査し確認することが大切である。特に振出人が同業者である場合は、工事内容等を確認し融通手形でないかどうか注意する。

2返済財源

 工事立替資金を単名で対応する場合は、工事紐付資金として取り扱うことが望ましい。

 返済財源は工事回収代金である。返済財源の確保管理上、工事代金回収につき振込指定や取立手形を獲得する。

■ 設備資金

1融資内容としては、機械工具、車両運搬具、資材置場、架設、現場事務所、本社事務所、管理システムとしてのOA機器ならびにソフト、研究開発施設などがある。

2それぞれ、施工能力アップ、合理化推進、受注戦略展開の面から、必要投資であるかどうか、投資効果はどうかなどについて妥当性を判断する。

3返済財源は、事業収益である。返済能力の算式は、〔返済原資=償却前引当前当期利益-(決算支出+既往借入返済+既往設備支払)〕によるが、好不況により業績に波があるので堅めに行うことが必要である。

4不動産担保などにより、債権保全措置を講ずる。中小零細企業の場合、企業としては担保余力がなくても、社長個人としては資力のある場合が多いので、社長個人の保証や担保提供を受けることで対応が可能である。

■ 〈制度融資ガイド〉

 日本政策金融公庫 セーフティネット貸付

 商工会等(日本政策金融公庫) マル経融資(小規模事業者経営改善資金)

 セーフティネット保証

主な経営指標

調査年

項目

平成29年度

平成30年度

令和1年度

収益性

総資本経常利益率

5.28%

5.56%

6.12%

売上高総利益率(粗利益率)

30.53%

30.98%

31.79%

売上高経常利益率

3.14%

3.36%

3.79%

売上高営業利益率

2.38%

2.61%

2.93%

売上高金利負担率

0.45%

0.42%

0.39%

効率性

総資本回転率

1.96回

1.93回

1.87回

売上債権回転期間

1.59月

1.56月

1.56月

棚卸資産回転期間

0.76月

0.73月

0.76月

買入債務回転期間

0.97月

0.95月

0.95月

安定性・流動性

自己資本比率

25.91%

29.00%

31.71%

流動比率

264.27%

268.65%

274.07%

固定長期適合率

47.75%

47.89%

47.62%

成長性・生産性

売上高増加率

7.00%

8.40%

9.34%

経常利益増加率

85.48%

85.84%

89.71%

1人当たり売上高

34,129千円

34,426千円

36,821千円

採算性

売上高損益分岐点倍率

1.11倍

1.12倍

1.14倍

集計企業数

7,687社

8,062社

7,467社

資料:帝国データバンク『全国企業財務諸表分析統計(第61〜63版(平成30〜令和2年発行))』(管工事業)