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このシグナルは、現状から今後6ヵ月間の見通しを短評。

文部科学省『学校基本調査』(2021年12月公表)によると、2021年度の幼稚園の総数は9,420園で、前年度より278園減少した。園児数は前年比6.4%減の1,009,008人と、幼稚園数、在園児数とも大きく減少しており、少子化と認定こども園への流出が減少に拍車をかけている。しっかりと地域に根付き、STEAM教育への取り組みや預かり保育の充実など顧客ニーズを捉えたマーケティングやブランディングにより、選ばれる幼稚園になることが求められる。(2022年7月改訂/中小企業診断士・岡田一郎)

 

教員数
(本務者+兼務者)

幼稚園数
( )はうち私立

園児数
( )はうち私立

2019年度

114,403人

10,069(6,538)

1,145,576人(972,296人)

2020年度

112,696人

9,698(6,398)

1,078,496人(927,896人)

2021年度

112,271人

9,420(6,268)

1,009,008人(875,544人)

資料:文部科学省『学校基本調査』2021年12月公表(幼稚園)

業界動向

1文部科学省『令和元年度幼児教育実態調査』(2020年1月公表)によると、2019年度の預かり保育実施率は87.8%であった。2023年度のこども庁創設に向け、子育て支援に手厚い幼稚園への国や地方自治体からの補助金・助成金支給は一層拡充される見込みであり、充実した預かり保育が提供できるかが幼稚園の生き残りの鍵となる。特に、2019年10月からは幼児教育・保育の無償化、預かり保育料無償化が実施された。その一方で幼保連携型認定こども園の数は、2019年度は前年度比16.7%増となり、園児数も同15.1%増と、急速に人気が高まっている。認定基準のハードルは高いにもかかわらず、幼稚園から認定こども園への移行も増えている。

2子供に質の高い教育を受けさせたいという親のニーズが強く、幼稚園の教育レベルに対する眼は厳しい。質の高い教育を提供するためにも、優秀な人材の確保・育成が課題であるが、園児数の減少と同時に、教員数も減少している。優秀な人材を求めても、確保しづらい状況が今後も続くと見られる。

3通常保育教育課程後の課外の時間に習い事を受けさせることができたり、カリキュラムの中に英語教育を取り入れたりするなど、教育内容に工夫を凝らす幼稚園が増えている。政府が少子化対策として幼稚園における子育て支援を強化しており、通常保育時間後の「預かり保育」を実施、充実させることで、助成金を確保したり、他園との差別化を図るなどが、経営の安定化に重要となる。

在園児数の推移 (単位:千人)

 

3歳児

4歳児

5歳児

合 計

2019年度

342

390

414

1,146

2020年度

321

367

391

1,078

2021年度

301

337

371

1,009

資料:文部科学省『学校基本調査』(2021年12月公表)

4コロナ禍の影響で、各園が様々な感染症対策を余儀なくされたが、このような状況下では子供を一番近くで見守り、教育・保育を実践する園と家庭が、子供を真ん中にして成長や育ちを支えていくことが重要である((一財)全日本私立幼稚園幼児教育研究機構 2022・2023年度教育研究課題)。

5保育園・幼稚園・こども園、様々な進路がある中で教育格差なく、小学校へ入学できるよう、幼保小の連携が重要視されている(文部科学省 幼保小の架け橋プログラムについて)。

業態研究

■ 立地

 一部の例外を除いて、電車通園はほとんどなく、住宅地域内に立地するのが通常である。また、送迎バスの有無で商圏が異なるため注意が必要である。

■ 地域性

 幼稚園の通園範囲はかなり狭いため、立地する地域の特性(幼児数や保護者の所得など)により幼稚園への就園状況は地域によって大きく異なる。小学1年生に占める幼稚園修了者の比率(就園率)は、2021年度は38.7%であるが、この比率は1979〜1981年度に64.4%となった後は低下を続けている。

■ セールスポイント

 教育の質の高さが最大のセールスポイントになる。具体的には教育理念、カリキュラム内容、教員の質などであるが、音楽教育や体育教育に力を入れるとか、有名私立小学校への入学実績が高いなどの特色を打ち出して他園との差別化を図ることが重要である。また、母親の間での評判も重要なポイントである。

■ 競合関係

 全国的に幼児人口が縮小しており、競合は激しい。幼保連携型認定こども園を選択する保護者が増加している。

 

教員数
(本務者+兼務者)

認定こども園数
( )はうち私立

園児数
( )はうち私立

2019年度

126,487人

5,276(4,533)

695,214人(610,151人)

2020年度

140,723人

5,847(5,013)

759,013人(664,292人)

2021年度

153,085人

6,268(5,406)

796,882人(700,431人)

資料:文部科学省『学校基本調査』2021年12月公表(認定こども園)

■ 経営形態

1前掲『学校基本調査』によると、2021年度の国公立幼稚園と私立幼稚園の合計数のうち86.8%を私立幼稚園が占めている。私立幼稚園の93.6%は学校法人経営で、残り6.4%の大半を個人経営と宗教法人経営が占めている。

2私立幼稚園の平均像は、園児数が1園あたり140人に対して教員が14.7人、教員の93.1%が女性で、平均勤続年数は8〜9年程度と短いため、人材を確保・育成することの重要性が、この点からもうかがえる。

流通・資金経路図

営業推進のポイント

 幼稚園の会計原則はかなり特殊で、一般企業と同じような形式の決算書を備えているところは少ない。ただし、学校法人立幼稚園には、学校法人会計基準に基づいた計算書類の作成が義務付けられているので、それに沿って幼稚園の財務状況を見るべきである(詳細は495「私立学校」を参照)。

■ 売上の見方

1帝国データバンク『第64版全国企業財務諸表分析統計』2020年度・2021年11月発行(その他の教育施設)によれば、売上に関する主な指標は次のとおりである。

   1人当たり売上高  13,083千円

   売上高増加率  12.35%

2幼児を対象にする課外教室、スクールバス、給食などによる収入と利息収入が見込める。こうした「帰属収入」と呼ばれるもののうち、その他収入や寄付金収入のウエイトが高いということは、幼稚園の経営基盤安定の観点から好ましくない。

■ 取引深耕のためのチェックポイント

1幼稚園は現金収支計算に基づく会計処理をしているので、発生主義に基づく損益計算の実態把握に努める。

2長期的な経営ビジョンがあるか。園舎や設備は5〜10年で改築・改装する必要があり、そのための財政的準備は行っているか。幼稚園が定期的に設備投資をし、経営基盤を安定するためには、帰属収入合計に対する消費支出合計(消費支出比率)は80%程度以内が望ましいとされている(ただし実際の平均値は90.1%)。

3予算管理は適正か。収入と支出の計画を綿密にたて、進捗状況をきちんと把握できているかどうかで、園全体の管理状況がわかる。

融資判断のポイント

■ 事業性評価のポイント

1少子化の影響で、幼稚園、園児とも減少している。このような状況下にある幼稚園経営は、何といってもその園児獲得の競争力の優劣にかかっているといえる。この競争力を見極めるには、入園児の入園テストおよび保護者との三者面談の有無から判断する。これらは、入園・募集要項・パンフレット、インターネットなどで確認できる。さらに、園の定員、応募者数なども把握して競争力の有無、優劣を判断する。

2学校法人による幼稚園の決算書類の見方については、495「私立学校」の項を参照されたい。

■ 運転資金

1収支はすべて現金で、しかも入出金の時期もあらかじめ分かっており、通常、運転資金需要は発生しない。

2実際に運転資金の借入申込みがあったときは、予算とその執行状況をチェックし、資金不足の理由と返済原資の確実性について確認する。

■ 設備資金

1一般に、経営内容が安定し教育内容が充実しているという定評のある幼稚園ほど、建物の増設や施設の充実を定期的・計画的に行っている。

21学級の幼児数、園舎や運動場の面積など、幼稚園の設備には学校教育法によって設置基準が定められているので、最低限この基準を満たしていることを確認する。

3大規模な設備の増改築は5〜10年前から計画を立てて行うのが通常であり、そのための特定預金を積立てている幼稚園も少なくない。特定預金の積立て状況をみれば、当該園の計画性の有無や返済能力をある程度判断することができる。

4園児数の急増が見込めない今日、相対的に上昇する教職員の人件費を賄えるように園児給付金を適正に引上げなければ、長期的な経営基盤は安定しない。長期貸付の返済力を検討する際には、収入と支出について的確な見通しのもとに予算化しているかどうかのチェックが必要である。

■ 〈制度融資ガイド〉

 一部自治体による補助金

主な経営指標

調査年

項目

2018年度

2019年度

2020年度

収益性

総資本経常利益率

4.01%

3.69%

4.92%

売上高総利益率(粗利益率)

77.34%

72.87%

75.08%

売上高経常利益率

4.40%

5.70%

5.31%

売上高営業利益率

4.18%

4.96%

2.01%

売上高金利負担率

1.10%

0.74%

0.91%

効率性

総資本回転率

0.97回

1.04回

1.06回

売上債権回転期間

0.54月

0.48月

0.78月

棚卸資産回転期間

0.12月

0.32月

0.19月

買入債務回転期間

0.05月

0.07月

0.11月

安定性・流動性

自己資本比率

35.54%

39.15%

27.63%

流動比率

202.67%

245.67%

308.05%

固定長期適合率

86.97%

76.78%

65.18%

成長性・生産性

売上高増加率

12.95%

3.02%

12.35%

経常利益増加率

50.91%

▲14.71%

51.73%

1人当たり売上高

16,373千円

18,658千円

13,083千円

採算性

売上高損益分岐点倍率

1.07倍

1.09倍

1.10倍

集計企業数

49社

62社

65社

資料:帝国データバンク『全国企業財務諸表分析統計(第62〜64版(2019〜2021年発行))』(その他の教育施設)