製造業
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しょう油製造業

0942

景気予測お天気マーク

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このシグナルは、現状から今後6ヵ月間の見通しを短評。

国内、海外ともにコロナの影響で飲食店向けなどの業務用しょう油の売上が減少している。家庭向けでは、内食率の高まりで、調味料にこだわる層や味のバリエーションや料理のしやすさからしょう油以外のしょう油風味のたれやつゆの購入を増やす層の増加から、需要は概ね安定している。今後、海外輸出量の増加や外食需要の回復、中食ビジネスでの需要増加に期待したいが、原材料価格上昇に応じた適切な価格転嫁や顧客ニーズにマッチした商品開発を継続的に行うなど企業努力が求められる。(2022年7月改訂/中小企業診断士・丸田佐和子 https://maruta-office.com/

 

製造品出荷額等

事業所数

従業者数

2017年

182,064百万円

370

7,015人

2018年

196,679百万円

360

7,214人

2019年

170,384百万円

351

7,023人

資料:経済産業省『工業統計表・産業別統計表』2021年8月公表(しょう油・食用アミノ酸製造業)

業界動向

1しょう油は最もなじみ深い調味料の一つであるが、人口減少や食の多様化によって、存在感が低下し続けている。総務省『家計調査年報(二人以上の世帯)』(2022年3月公表)によると、1992年に1世帯あたり約12リットルだった消費量は、2021年には半分以下の4.8リットルにまで低下した。一方で、だししょう油、めんつゆ、及びポン酢しょう油、といったしょう油加工品や、鮮度を長期間保つ容器に詰められた「生」しょう油がシェアを伸ばし続けており、購入金額の減少に反して購入単価は上昇を続けている。

2大手メーカー6社で国内流通する醤油の約60%を、準大手メーカー9社を合わせた15社で約75を生産しており、零細メーカーとの二極化が著しい。日本醤油協会『醤油の統計資料2020年実績』によると、1965年に4,441社あった工場は2020年に1,108社まで減少した。

3原料の大豆の約95%はアメリカやブラジル等からの輸入である。したがって、原料価格はシカゴ商品取引市場の相場価格や為替変動、及び輸送コストの影響を受ける。穀物の主要生産国であるロシアとウクライナの紛争は穀物相場全体に影響を与えており、大豆価格の高騰要因の一つとなっている。

4食生活の多様化や減塩志向などにより、国内需要回復の期待は薄いが、海外の需要が拡大している。輸出額は1989年の8,418千ℓから2019年には37,101千ℓまで増加(2020年はコロナの影響もあり、33,998千ℓと一時的に低下)している。また、海外生産についても拡大を続けており、2008年に180千㎘だった生産量は2018年には268千㎘と増加傾向にある。

5しょう油の容器も多様化がんでおり、スプレー型容器も注目されている。食材にまんべんなくしょう油が行き渡ることや、しょう油の使用量が減り減塩効果が得られる、といったメリットがある。

6近年の健康トレンドとしては、減塩から無添加、グルテンフリー、さらに有機と推移してきており、国内、海外ともにハイエンド向け小売商品では差別化必須となってきている。木桶仕込みなどストーリー性を持たせたり、パッケージにオリジナリティを持たせたりと、ブランディングが顧客獲得には欠かせない。

調味料の品目別生産数の推移

品 目

2019年

2020年

2021年

みそ

481,574t

474,700t

462,083t

しょうゆ

744,263 kl

702,423 kl

703,704 kl

マヨネーズ

225,239t

217,379t

218,155t

ドレッシング

409,908t

399,564t

412,372t

資料:農林水産省『令和3年度版 食品産業動態調査』(2022年3月公表) 

業態研究

■ 製品の形態

1JAS規格で、しょう油の種類は「しろ」「たまり」「こいくち」「うすくち」「さいしこみ」に分けられている。

(1)しろしょう油は、愛知県碧南市で生まれた、コハク色の透明なしょう油である。原料は小麦がほとんどで、大豆が少量使われる。熟成は短時間であり、淡白な味と高い香りが特徴である。また小麦が主原料なので、糖分が高いのも特徴の一つである。うどんのつゆや吸い物、鍋料理等に使われる。また、材料の色や風味を生かす料理等にも適している。

(2)たまりしょう油は、愛知を中心とした東海地方で生産されている。前掲『醤油の統計資料 2020年実績』によると、2020年におけるしょう油の出荷量の2.0%である。原料は大豆がほとんどで、極めて少量の小麦を加える。色が濃く、とろりとした濃厚な味がする。佃煮、せんべい等の加工用等に使われている。また、さしみ等のつけしょう油等に使われている。

(3)こいくちしょう油は、一般的な「しょう油」。主に関東地方で発達したしょう油で、現在は全国的に生産されている。同年におけるしょう油の出荷量の85.2%である(同資料)。原料は大豆・小麦50%、食塩は16〜18%である。つけしょう油、かけしょう油、煮物しょう油のほか、あわせしょう油にも適している。

(4)うすくちしょう油は、兵庫県竜野地方で生産されていたが、現在では全国的に生産されている。同年におけるしょう油の出荷量の11.2%(同資料)である。原料は「こいくちしょう油」と同じである。色を淡く仕上げるために塩分濃度を高くし、発酵を押さえたり、火入れ温度を「こいくち」より低くする等の工夫により生産されている。また、仕上げに甘酒等を加え甘味をつける。香りが弱い。塩分は「こいくちしょう油」より約1割高い。料理の素材を生かす野菜や白身の魚等に使われている。

(5)さいしこみしょう油は、山口県の柳井地方が本場、最近では九州から山陰地方等で生産されている。同年におけるしょう油の出荷量の1.0%(同資料)である。原料は「こいくちしょう油」と同じである。塩水のかわりに火入れをしていない生揚げしょう油を使って仕込む。たまりしょう油よりも香りがある。色や味が濃厚で、「甘露しょう油」とも言われている。甘露煮、さしみや寿司等のつけしょう油等に使われている。

2しょう油の等級は、以下の3段階に分けられている。

(1)しろしょう油の農林規格は、①特級は色度No.46以上、全窒素0.4〜0.8%、直糖エキス12%、純エキス16%、②上級は色度No.46以上、全窒素0.4〜0.9%、直糖エキス9%、純エキス13%、③標準は色度No.46以上、全窒素0.4〜0.9%、直糖エキス6%、純エキス10%である。

(2)成分については、①色度はしょう油の色を表している。数字が大きいほど淡い色を示している。こいくちしょう油はNo.18未満、うすくちしょう油はNo.22以上である。②全窒素はアミノ酸の量を窒素に置き換えて測定。全窒素分が多いほど、うま味が多い。③直糖エキスは糖分を示している。④純エキスは食塩以外の物質の多少を表している。

(3)等級と評価基準は、①特級は醸造しょう油特有の色や艶を有し、香や味が優良。特級の基準品の官能検査に合格。②上級は醸造しょう油特有の色や艶をもち香や味が良好。③標準は色や艶および香や味が良好。これらは日本農林規格により、品質表示基準3段階に分けられている。

■ 営業形態

1キッコーマン、ヤマサ、正田、ヒゲタ、マルキン、ヒガシマルの大手6社で約60の出荷量を占めており、一般家庭市場にはこれらのメーカー、ブランド品が多く、一部にスーパーなどのPBが存在する程度である。大手6社以外の企業では、地場の家庭需要を中心に業務用・スーパーなどのPB用や大手の下請を手がけているところも多い。

2しろしょう油はせんべい・あられ・おかき等のお菓子や漬物・惣菜の加工原料として製造直売する営業形態を取っている。

■ 生産形態

1生産期間が長期にわたるため、見込生産が主流であり、業務用・PB用などの受注に対しては、包装・物流の変更で対応している。食生活の多様化に応じるため、多品種・少量生産の傾向にあるが、醸造の主工程は中品種で、最終の包装工程で多品種・少量となる。

2地場の特産品需要に応じるため、特定品種の少量注文生産が多くなる傾向にある。生産期間が長期にわたる醸造工程においても手作りの高品質で対応しているため、商品価値が高く、高価である。

■ 主要原料

 主要原料は、大豆または脱脂加工大豆と小麦であり、それらの融合により、風味は主に大豆のたんぱく質から、香りは小麦のでんぷんから、それぞれ微生物の働きにより、醸し出される。また、特徴ある色は、たんぱく質から得られたアミノ酸と、でんぷんから得られたブドウ糖が組み合わされて生まれる。

■ 製造方式

 しょう油の製造方式には、日本農林規格で規定されている3つの製造方式がある。

(1)本醸造方式…大豆または脱脂大豆を水洗、蒸煮、冷却したものに、小麦を精選、加水炊煎、冷却、粉砕して、種麹と一緒に混合し、通風製麹機で26〜30℃、72時間かけて麹を作る。これに食塩水と純粋培養した酵母菌を加えて、発酵タンクで27〜28℃で6カ月以上かけて発酵熟成させる。これを圧搾、ろ過し、7〜10日滴澄させて、75〜83℃で加熱殺菌して、再度ろ過をして瓶詰の包装を行う。

(2)新式醸造方式…本醸造もろみまたは本醸造の殺菌前の生揚しょう油に、アミノ酸液を加えて、発酵タンクで熟成し、その後は本醸造と同じ工程で瓶詰め包装を行う。

(3)アミノ酸液混合方式…本醸造の生揚しょう油と、アミノ酸液を混合し、加熱殺菌、ろ過して、ペットボトルまたは瓶詰め包装を行う。

■ 設備形態

1しろしょう油の場合、製造工程は、原料→原料処理→製麹→仕込→引分→二番仕込→濾過精製→製品の流れ工程である。ここにおいて、設備形態は以下のようになる。

(1)原料処理工程の精麦機…麦は精白して、その後洗浄等をして糠を取る。

(2)製麹工程の放冷機等…蒸しあがった原料を40℃前後に冷却する。

(3)製麹工程の製麹室…香煎等での増料材に混ぜた麹を均一に混合して盛り込む。

(4)仕込工程の仕込容器…木製やライニングタンク等が使われる。発酵熟成後、引分しやすいようにスノコや網を取り付けておく。ここに麹を仕込み、塩水を入れて、十分塩水がしみ込んだ頃に、諸味の表面に綿布等の清潔な布で表面を覆い諸味が浮き上らないように置石をおく。

(5)引分工程の仕込容器…下部にある呑み口を開け、仕込み後2〜3カ月したら、しろしょう油を分離、引分する。

(6)濾過精製工程の精密濾過機…製品の目的に応じて、配合基準に従って調合した後、精密濾過を行う。

(7)製品工程の充填機…しろしょう油の製品は瓶詰め、缶詰め、その他の容器に充填される。

2装置産業的形態であるので、伝統のある工場、中小の工場は、撹拌や運搬に人手を要する3K職場もあるが、上述1.のように、中小企業も改善がなされてきている。大工場では機械化、自動化が進み、環境も改善されている。

■ 経営形態

1経済産業省『工業統計表・産業別統計表』(2021年8月発行)(しょう油・食用アミノ酸製造業)によると、2001年以来、企業規模の格差が大きく企業数が減少傾向にある。2019年は、全企業数351所のうち従業者数4〜29人の零細企業の数が301所あるにもかかわらず、出荷額は37,270百万円で21.8%のシェアを占めているに過ぎない。

2これら零細企業は、大手企業が嗜好の多様化に合わせて新製品を次々と出しているのに対し、開発力のない企業として淘汰されている。

流通・資金経路図

営業推進のポイント

■ 売上の見方

 帝国データバンク『第64版全国企業財務諸表分析統計』2020年度・2021年11月発行(調味料製造業)によれば、売上に関する主な指標は次のとおりである。

   1人当たり売上高  34,599千円

   売上高増加率  ▲4.39%

■ 採算の見方

 前掲『第64版全国企業財務諸表分析統計』によれば、採算に関する主な指標は次のとおりである。

   総資本経常利益率  2.27%

   売上高総利益率  28.11%

   売上高営業利益率  0.03%

   売上高損益分岐点倍率  1.08倍

■その他の着眼点

 前掲『第64版全国企業財務諸表分析統計』によれば、効率性・安定性に関する主な指標は次のとおりである。

   総資本回転期間  15.18月

   固定資産回転期間  7.41月

   自己資本比率  31.87%

   流動比率  303.82%

融資判断のポイント

■ 事業性評価のポイント

 国内市場には成熟感が窺える業種であるため、過大な設備投資に走っていないかに注意が必要。また、穀物高の影響を受け収益も軟化基調であるため、返済原資を賄えるだけの粗利が確保されているかという点にも留意したい。加えて、地場産品が注目されている昨今、地方の零細な企業でも製法や安全性等によって、全国ブランドにまで育つ企業も出てきている。マーケティングセンスの可否も検討すべきである。

■ 運転資金

1本醸造方式の場合は、製造所要期間が長いので原料仕入資金として経常的に運転資金を必要とする企業もある。

2しょう油を他の調味料と合せることで新たなしょう油ベースのつゆやたれ、しょう油をベースとした新調味料の開発を行う企業も現れている。新商品開発の場合は、最先端バイオ分野など、多額の資金が必要となることも考えられる。

■ 設備資金

1設備の老朽化のための設備更新資金や、人手不足に対応しての省力化投資資金が発生する。

2設備の合理化投資にあたっては、現状の販売量、設備稼働率の実態をよく把握して投資効率を判断する必要がある。

3公害防止設備投資を必要とするときは、廃棄物の有効利用、回収なども含めた計画として検討する。環境対策として、ISO14001を取得する所も出ている。

■ その他のチェックポイント

1品質管理は十分であるか、食品衛生法に関する理解は十分であるか。HACCP(危害分析・重要管理点)を実施しているか、クレームの頻発はないか、クレーム対策は適切か、不当表示および偽装製品などの評判は立っていないか。

2納期遅れはないか、あった場合の対策を適切に行っているか。

3生産過程においても計数管理が行われているか。最先端ナノテク分野など、新しい検知器や計測機の機器導入が行われているか。

4設備保全は十分に行われているか。故障が多くないか。

5付加価値の高いポン酢タレ等のしょう油加工品の商品開発を行う体制にあるか。

主な経営指標

調査年

項目

2018年度

2019年度

2020年度

収益性

総資本経常利益率

2.82%

2.23%

2.27%

売上高総利益率(粗利益率)

29.35%

29.46%

28.11%

売上高経常利益率

2.70%

2.32%

1.71%

売上高営業利益率

1.97%

1.63%

0.03%

売上高金利負担率

0.63%

0.71%

0.69%

効率性

総資本回転率

1.18回

1.14回

1.05回

売上債権回転期間

1.97月

1.91月

1.90月

棚卸資産回転期間

1.67月

1.82月

1.89月

買入債務回転期間

1.16月

1.15月

1.12月

安定性・流動性

自己資本比率

33.81%

32.80%

31.87%

流動比率

255.94%

266.07%

303.82%

固定長期適合率

69.44%

71.13%

65.12%

成長性・生産性

売上高増加率

0.88%

0.43%

▲4.39%

経常利益増加率

26.88%

48.53%

▲48.97%

1人当たり売上高

38,827千円

37,105千円

34,599千円

採算性

売上高損益分岐点倍率

1.10倍

1.09倍

1.08倍

集計企業数

172社

159社

172社

資料:帝国データバンク『全国企業財務諸表分析統計(第62〜64版(2019〜2021年発行))』(調味料製造業)