◆注目の話題
 
A 相続手続の変更ポイント
 

1.相続手続に関する変更
 昨今、従来の相続手続に影響を与える判例の変更や制度の創設があり、注目されています。それは、遺産分割の公平性を重視した最高裁決定「預貯金を遺産分割の対象とした判決」と、相続登記推進のために創設された「法定相続情報証明制度」です。

2.預貯金を遺産分割の対象とした最高裁決定
 平成28年12月19日、最高裁判所の大法廷にて「預貯金が遺産分割の対象となる」とする決定がなされました(平成27年(許)第11号 平成28年12月19日 大法廷決定)。
  この決定は、従来の取扱いを変更するもので、相続手続に大きな影響を与えると思われます。

(1)従来の取扱い
 これまで、相続における預貯金の取扱いは、相続開始と同時に当然に各共同相続人に分割され、各共同相続人は、当該預貯金債権のうち自己に帰属した分を単独で行使することができるものと解されてきました。
 つまり、相続財産に預貯金がある場合、その預貯金は遺産分割協議を経ることなく、当然に各共同相続人が法定相続分に従って分割取得するもので、その取得分については個別に処分することも可能であり、原則的に遺産分割の対象にはならないとされていました。
  もっとも、実務上は、上記の取扱いを原則とするものの、例外的に、相続人全員の合意のもと、預貯金も遺産分割の対象に含めるという運用が広く行われてきました。

(2)決定の内容
 本件は、被相続人の相続財産をめぐり、共同相続人2名のうちの一方が、預貯金を遺産分割の対象に含めないのは不公平であるとした、遺産の分割申立て事件です(事実関係等については割愛します)。
 決定では、遺産分割について、「相続人が数人ある場合、各共同相続人は、相続開始の時から被相続人の権利義務を承継するが、相続開始とともに共同相続人の共有に属することとなる相続財産については、相続分に応じた共有関係の解消をする手続を経ることとなる(民法896条、898条、899条)。」と説明し、
@遺産分割の仕組みは、被相続人の権利義務の承継に当たり共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするものであることから、一般的には、遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましく
A遺産分割手続を行う実務上の観点からは、現金のように、評価についての不確定要素が少なく、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在する
という前提事実を指摘したうえで、「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」としており、預貯金が遺産分割の対象となる旨を示しています(本決定の判決文引用)。

(3)今後の相続実務への影響
 今後は以下のように、相続の手続や遺産分割が変わるものと考えられます。
@遺産分割協議における変更点
 決定のとおり、預貯金は遺産分割の対象となるという判断がされたため、従来の「相続人全員の合意」という条件はなくなり、今後は相続人の同意の有無にかかわらず、預貯金についても、遺産分割協議において検討されるべきものとなりました。
 また、遺産分割手続において基準となる相続分は、特別受益(生前贈与等)や寄与分などを考慮したうえで定められる具体的相続分ですが、この具体的相続分には、遺産分割の対象とならない財産は含まれません。従来、預貯金については、原則的に遺産分割の対象とならなかったため、具体的相続分の算定においても考慮されないという取扱いがなされていました(本件申立てにおいても、具体的相続分の算定が問題とされたものでした。)。
 しかし、今後はその原則的な取扱いが変更され、預貯金も遺産分割の対象に含まれるとされたことから、預貯金等の額も含めた遺産総額を基に具体的相続分を算定する必要が出てきます。つまり、相続財産中の預貯金は、法定相続分どおりに当然に分割されるものではなく、遺産分割の対象に含まれ、特別受益や寄与分を考慮して具体的相続分が算定されることとなります。

A金融機関の対応
 これまで、金融機関の取扱いは、遺言がない場合においては、原則的に遺産分割協議書の提出又は所定用紙に相続人全員の署名・捺印を得たうえで、預貯金の払い戻しに応じてきました。すなわち、法律上の取扱いとは異なるものでした。本決定により、法律上の取扱いが変更されましたが、金融機関の取扱いは、特段実務上の変更がないものと考えられます。
 ただし、金融機関によっては、これまで例外的な取扱いとして、法定相続分の払い戻しに応じるケースもあったようです。今後は、遺産分割協議が成立するまでの間、被相続人が負っていた債務の弁済や共同相続人の当面の生活費として預貯金の一部払い戻しをすることが困難になる可能性があります。

3.法定相続情報証明制度
 不動産の所有者が死亡した場合、相続登記(所有権移転)による不動産の名義変更をする必要がありますが、近年、相続登記がされないまま放置されている不動産が増加し、いわゆる所有者不明土地問題や空き家問題の一因となっていることが指摘されています。
 この問題を解決するために、「法定相続情報証明制度」が新設されます。

(1)制度の概要
@申出
 法定相続人又は代理人が、登記所に、被相続人の出生から死亡までの戸除籍謄本等および法定相続情報一覧図(放棄や遺産分割協議の内容は対象外)を提出します。
A確認・交付
 申出を受け付けた登記所の登記官は、申出の内容を確認し、提出された法定相続情報一覧図を保管のうえ、認証文付き「法定相続情報一覧図の写し(以下、「証明書」といいます。)」を交付します。また、提出された戸除籍謄本等はその際に返却されます。なお、交付の手数料は無料(郵送の場合は実費が別途必要)です。

(2)制度の利点
 「証明書」は、各種相続手続に利用でき、戸籍書類一式の代わりに提出することが可能となります。相続人は、同じ戸籍書類一式を複数部入手しなくても、「証明書」を無料で複数発行すれば、複数の相続登記の申請その他の相続手続を同時並行で進められるというメリットがあります。


資料:パブリックコメント(e-Gov)案件番号:300080154における「省令案の概要」別添より

(3)制度の今後
 「法定相続情報証明制度」は、平成29年5月下旬から開始される予定 (平成29年3月28日 法務大臣閣議後記者会見より)で、これにより、相続登記の促進が期待されます。相続実務においても、不動産登記、預貯金解約、保険請求といった遺産整理事務の効率化が図られることでしょう。
 一方、同制度が開始された後も、放棄や遺産分割協議があった場合については、従来どおりの書類(遺産分割協議書等)が相続手続の際に必要となります。また、戸籍書類一式を取得する手間は変わらず、戸籍関係事務の煩雑さは解消されないといった課題も残されています。
 なお、マイナンバーの相続手続関係分野への活用なども検討されていることから、相続手続のさらなる簡素化が実現されていく可能性がありますので、引き続き今後の動向にも注目です。

(文責:辻・本郷税理士法人 http://www.ht-tax.or.jp/


  • 2017年5月改訂版
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