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I 相続・贈与 1 相続の法務 B 相続の承認と放棄  

(1) プラスの財産の多い時は「単純承認」を選択

質問:
故人の権利義務については、@無条件に承認する、A債務については相続した財産の範囲内で承認する、B一切引き継がない、という方法が取れると聞きました。亡くなった父の相続財産は、債務はありません。どの方法をとるか教えてください。

要旨:

 相続財産の承継には、被相続人の権利義務を無条件に承認する相続人の意思表示(単純承認)、相続によって得た財産の限度において被相続人の債務等を弁済するという限定された相続人の意思表示(限定承認)、「自己の相続に関して、初めから相続の権利義務を一切引継がない」旨の意思表示(相続放棄)の三つの方式があります。
 故人の残したプラスの財産が負債より確実に多い場合は、単純承認で相続したほうがいいでしょう。三つの方法の中で最も一般的で、簡便な方法です。

解説:

1 総説
@ 承認と放棄
  相続の承認というのは、相続の開始によって、被相続人に属していた一切の権利義務を全面的にまたは条件的に承認するまたは拒否しないという相続人の意思表示です。この承認には単純承認と限定承認の2種類があります。また、相続人は、相続を強制されるわけではなく、その意思によって、相続しなかったことにすること(相続放棄)もできます。
A 限定承認
  限定承認は、相続するにしても、被相続人の債務および遺贈によって生じた債務は、相続財産の存する限度で弁済し、相続人自身の固有財産をもって責任を負わないという留保つきで承認することです。
  相続によって得たプラスの財産の限度でのみ被相続人の債務を負担することを承認するという限定承認は、被相続人の残した相続財産がプラスの財産が負債より多いかどうか不明な場合には適している方法です。
B 単純承認
  単純承認とは、被相続人の権利義務を無限に承認する相続人の意思表示のことです。被相続人の権利義務を無条件に相続するという意思を表示したとき、および、結果的に相続の放棄も限定承認もしなかったときに、初めて全面的に相続を承認したこと(単純承認)になります(民法921条2号)。単純承認は、相続財産より債務の多い場合でも、相続人の固有財産で弁済する責任を負うことになります。
C 相続放棄
  相続放棄は、相続の開始によって、被相続人に属していた一切の権利義務を相続人が一切引継がない旨(相続しない旨)の意思表示をすることです(民法938条)。被相続人の残した相続財産のうち、プラスの財産よりも借金などの負債の方が多い場合に放棄は効果があります。
D 手続
  限定承認及び相続放棄は、一定の手続きを行わないとその効果を得ることができません。限定承認は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に、相続人の全員で家庭裁判所へ申述しなければなりません(民法923・924条)。相続放棄も、限定承認と同様に家庭裁判所への申述によってします(民法938条)。

2 熟慮期間等と単純承認
  相続人が限定承認も相続放棄もしないで熟慮期間(自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月)を経過すれば、民法は単純承認をしたものとみなしています(民法921条2号)。また、相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき、および限定承認、放棄をした後でも相続財産の全部または一部を隠匿したり、ひそかに消費したり、悪意で財産目録に記載しなかったときも単純承認したものとみなしています(法定単純承認〔民法921条1号・3号〕)。
  単純承認により、被相続人の相続財産は、プラスの財産も、負債なども、そのまま単純に相続されます。
  ご質問のケースでは、被相続人の相続財産に債務はないとのことですので、限定承認及び相続放棄をあえてとる必要はなく、単純承認で相続される方法でよいでしょう。

(文責:中央綜合税理士法人)

⇒相続が発生した後のスケジュール

⇒宅地等を相続したときの評価方法

⇒小規模宅地の特例による相続財産の評価減とは

 

 

  • 平成29年8月改訂版
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